書籍「ひとりで学ぶ会社法」

この本は、初学者が会社法を独学で学ぶための「トレーニング・ガイド」である。このトレーニングは山登りになぞられているが、その要点は「繰り返し」であると著者は説く。

 「この本の使い方」を読むと、「実力をつけるためには、」と始まり、大学受験を例に、「文法や公式を教科書で読んで覚えるだけではなく、問題を繰り返し解き、間違いを繰り返しながら、知識の正確性を高めるとともに、その使い方を定着させることが必要である」と述べている。そして、このために、初級(25テーマ)⇒中級(18テーマ)⇒上級(6テーマ)に分けてステップアップするようになっている。本書にそって学ぶことにより、独学で、事例を通して条文と解釈を一体のものとして身につけることができそうである。  会社法は弁理士にとってはあまりなじみがない法律であるが、「職務発明の予約承継」において、代表取締役の発明を会社に予約承継させる場合は、取締役会の承諾が必要である、というトピックがある。これは会社法では、「利益相反取引」のうちの「直接取引」(自己取引)に属する類型とされる。本書では、これとは別の事例ではあるが、初級のテーマNo.13「取締役の会社に対する責任」において、このような場合の「取締役の責任」について解説している。  「423条の任務懈怠責任は、すべての場合に、役員等が会社に対して責任を負う法理として機能する。」とし、「利益相反取引が行われた場合、…たとえ適法な取締役会の承認を得た場合であっても、任務懈怠の推定は及ぶ。役員がこの責任を免れるには、任務懈怠がなかったことを立証する必要がある。」と説明する。加えて、「利益相反状況における取引は類型的に危険性が高いため、慎重な取引を提案したり、内容の適切さを承認の際に慎重に判断することを求める趣旨であり、適法な承認が行われた場合は、たとえ結果的に損害が発生しても、上記の取締役が問答無用で責任を負うことになるわけではない点には注意されたい。」と解説している。  このように、条文の背景にある法理から説き起こして類型に応じて修正が加わっているという法律の構造が条文の説明とともに明瞭に説かれており、初学者にとって頼もしいガイドであると感じられる。加えて、「At the Peak」(あとがき)では、著者のひとりがこの山登りを途中で挫折したとの告白があり、その体験を踏まえ、「繰り返しトライ」することで「登りきることができる」と初学者に対するエールが送られている。著者らの「熱さ」が感じられる独学書である。

書影からオンライン書籍販売の商品ページにリンクします。
弁理士の皆様がご利用の際には組合ホームページから利用登録して下さい。

ひとりで学ぶ会社法